ーー2019年、ついにミズキが発売になります。いよいよ渓流に帰って来たという感じですね。
伊藤 そうですね。2011年に創立したLONGIN.は、まずシーバスというジャンルに絞って始めたのですが、僕自身がもともと渓流が好きで前にいたルアーメーカーに入ったというのもあるので、創立当初からいずれ渓流をやる予定ではいました。3年くらいで渓流も始められるかと思っていましたが、結局8年も経ってしまいましたね。
ーー渓流ルアー第一弾でヘビーシンキングミノーを選んだのには理由があるのですか?
伊藤 僕が渓流にハマったのは20歳くらいのときなんですが、その頃ちょうど渓流でミノーを使うのが流行りだした頃なんですよ。自分が釣りにハマるきっかけもミノーだったので、やはり第一弾は思い入れの強いミノーにしようと思っていました。
ヘビーシンキングミノーを選んだのは、渓流でどれだけ多くのエリアをカバーできるのかと考えたときに、いちばん広範囲に探れるのがヘビーシンキングだったからですね。ミズキは、今までよりもさらに広く、さらに深く探れるミノーをコンセプトに、とにかくヘビーシンキングミノーの利点を追求して作りました。5.6gの重さがあるので、幅広いフィールドに対応できますし、今までより早くひとつ下のレンジへ入れることもできます。
ーー50㎜で5.6gというと、このサイズのヘビーシンキングではかなり重いと思うのですが、このウエイト設定ははじめから決まっていたのですか?
伊藤 細かいウエイトは作りながら詰めていきましたが、50㎜でできる限り重たいルアーを作ろうという想いは始めからありました。着水から巻き始めれば浅いレンジを探れますし、止めれば深いレンジにも入れ込める。それこそ淵でラインをフリーにして底まで落とせば、ジグやスプーンのようにボトムを探ることも可能ですからね。 流れの強い場所でしっかり水を噛んでその場にいられる対応力の強さだとか、細かいトゥイッチにもラインを張ったらすぐ反応するレスポンスの高さ、ダウンに入っても粘って泳ぎ続けることなど、ミノーの基本性能を突き詰めていく中で、納得のいく形、重さを探していって辿り着いたのが5.6gというウエイトでした。



ーーミズキの得意なフィールドはどんなところでしょうか?
伊藤 源流などではなく、渓流から本流がメインフィールドになります。水深30㎝くらいのところでも使えますが、ヘビーシンキングなので水の押しが強かったり、水深のあるところが得意ですね。
ーーアクションはどのような感じですかね。
伊藤 ウォブリングとローリングが均等ですね。タダ巻きでもプルプルプルッと小刻みに動きますし、トゥイッチをさせてその場でキラッキラッと誘うことも可能です。泳ぎの姿勢は水平ですが、止めると水平のままワンテンポ間があったあと、徐々にお尻から落ちていきます。動きを止めると水平のままピタッと一瞬止まります。それが喰わせの間にもなりますから、いろいろなアクションやポーズもいれてみて欲しいですね。
ウエイトが重いミノーは、Uターンするときに慣性の法則が強く働いて振られる力が強く出てしまい、バランスを崩して一度浮き上がってしまうのですが、ここが魚がいちばんヒットするタイミングなんです。ですから、ミズキはそこで泳ぎが破綻せずに、しっかり粘るように設計してありますし、アップ、ダウンどちらでも水を噛んで飛び出しません。渓流歴の長い方にも、使って納得していただけると思います。
ーー古くから渓流ルアーをやっていて伊藤さんを知っている人からすれば、流れの中での粘り強さなど、ミズキは伊藤さんらしいミノーに仕上がっていますね。
そう言ってもらえると嬉しいですね。



ーー私も最終サンプルをお借りして昨シーズン半年ほど使わせてもらったのですが、ミズキはこれだけのウエイトなのにボディ、とくにリップが強く、一度も折れず割れたこともありませんでした。強度設計にはかなり気を使って作られたのですか?
伊藤 そうですね。ミズキはパッと見はゴツくないのですが、リップとボディの設置面を増やすことで強度アップを図っています。ヘビーウエイトだとリップが折れやすいと思われがちですので、ミズキを使うとその辺りの強さにはビックリするかもしれません。
リップの角度もけっこう寝ているので、アクション中に岩などに当たっても横に逃げて負荷が掛かりにくいのでリップは破損しにくいですね。アイのワイヤーも太くしていますので、ヘビーウエイトですが破損は気にせず投げてもらえますよ。このあたりの強度設計面は、海のルアー作りでの経験が生かされていますね。
ーー5〜6ftの一般的な渓流ロッドで投げても飛びますが、長いロッドで使うとまた違うらしいですね。
伊藤 そうなんですよ。通常の渓流釣りでも飛距離は実感してもらえると思うのですが、6ft以上のロッドを使うと、段違いに飛ぶので投げたらビックリすると思います。
フックは標準では#12が付いていますが、本流などターゲットが大きい場所では#10に変更してもいいですね。自重が重くてバランスが取れているので、シングルフックを装着してもアクションに影響はありません。ターゲットやフィールドに応じて付け替えてみて下さい。



ーーLONGIN.を立ち上げてからはシーバスミノーの開発が続いていたと思います。先ほども少しお話に出てきましたが、海のルアーから渓流ミノーへどんなフィードバックがあるのですか?
伊藤 シーバスルアーから得たヒントはたくさんありますね。前の会社でもシーバスルアーは作っていましたが、LONGIN.を起業してからは、同じような製品をリリースしては意味がないので、LONGIN.らしいルアーというのをずっと考えて開発してきました。
シーバス第一弾のキックビートは水平姿勢にこだわって開発したのですが、水平に泳ぐバランスで作ると飛距離がどうしても出ないんです。ですが、シーバスは飛距離も重要なんですよね。飛ぶバランスと釣れる動きのバランス、この相反する問題をどう解決するのか。これは上下にフィンを配置したボディ形状とウエイトバランスで解決したのですが、飛距離と釣れやすさのバランスについて、改めて考えるきっかけになりました。
その後もフィンキールの開発など、過去に作ったことのある同じジャンルのルアーを開発するときに、常に新しいものを生み出そうと試行錯誤しながら作ってきましたので、考え方の幅はかなり広がりました。
例えば、今回リリースしたミズキのようなヘビーシンキングミノーは、重いので普通に作ると水を受けてプリプリ泳ぎにくいのですが、ミズキはしっかり水を受けてもそこからうまく水を受け流すことで、リップレスのシンキングタイプのルアーを使ったときの揺れるようなアクションを再現させています。こういう泳ぎを出すのには、海での経験がとにかく大きく生かされていますね。
先ほどお話ししたルアーの強度などもそうですが、昔僕が作ったルアーと比べると、今のルアーのほうが使い勝手が良くなっているのに、より高い強度で設計できるようになりました。



ーーヘビーシンキングミノーは広く深く探れるメリットがありますが、重くしたことでのデメリットはありますか?
伊藤 ヘビーシンキングだと浮力がなく慣性の法則も強く働くので、フックがラインを拾いやすくなるデメリットがありますが、極力それがないバランス設計にしています。
しかし、ミズキのコンセプトと対極の場所ともいえる、流れのない小渓流のような場所で使うと、細かいトゥイッチなどでは移動しすぎてしまい、ラインを拾いやすくなってしまうことがあります。
実は現在、すでにそういう小渓流などでも使いやすいタイプのミノーを作り始めています。まだお見せできないのですが、こちらもLONGIN.らしい渓流ミノーになると思いますので、楽しみにしていてください。
ーーちらっとテストサンプルを見せてもらいましたが、これはミズキで対応できない場所だけでなく、渓流から本流でも面白そうなミノーですね。こちらも早い発売を期待しています。



ーーそれでは最後に、ミズキを待ち望んでいた全国の渓流アングラーの皆さんにメッセージをお願い致します。
ミズキは2016年から開発をスタートし、2017年は全国でテストを開始し、春夏秋と小渓流から本流まで繰り返しテストをしてきました。数多く行った中で尺上も含めたくさん魚を釣りましたが、いい魚が釣れたのはほとんどが思った以上に深いレンジでしたね。これは、ヘビーウエイトの実用性を確認するとともに、ミズキのコンセプトが間違っていなかったことが実証されたのだと思います。
テストとして結果が良かったことが多く、魚を1匹釣るごとに完成に近づいていきました。見た目では目新しいものはないかもしれませんが、テストを重ねれば重ねるほどどんどん見えてくることがあるので、それを改めて確認してきました。
LONGIN.の渓流ルアー第一弾ということもあってプレッシャーを感じることもありましたが、すごく楽しくテストをして完成したルアーです。かなり楽しいルアーができたと言う自負がありますので、皆さんもミズキを使って渓流を楽しんでもらえたらと思います!
ーー伊藤さんありがとうございました。ミズキはいよいよ2019年2月中旬発売です。LONGIN.製品取扱店で是非お手に取ってみてください!
製作途中からミズキのテストに参加したLONGIN太田氏の開発釣行記も好評連載中です!
開発釣行記やLONGIN.トラウトの最新情報は【TROUT NEWS】をご覧ください。